#00 株式会社AGARU代表取締役 黒瀬翼

デジタルマーケティング最前線インタビュー

「デジタルマーケティング最前線インタビュー」は、インタビュアーに株式会社AGARU代表取締役 黒瀬 翼氏を迎え、様々な業界の先駆者に『グロース』をテーマとしたデジタルマーケティングやビジネスについてのお話を伺っていくコーナーです。

記念すべき第一回目はインタビュアーをご快諾いただいた黒瀬さんに、グロースマーケティング編集部がインタビューしました。

黒瀬さんのお仕事について教えて下さい

IT全般のコンサルティングから受託開発、自社サービスの開発等「ITのなんでも屋」と言われてます。

例えば、クライアントがスマホアプリの導入を検討する際、大抵は新規事業の位置づけでした。やりたいことを盛り込むとそれなりに費用がかかるので、事業としてどう取り組めばいいか、ホームページの関係どうすればいいのか、店舗とどう連動したらよいかなど、部署だけで判断できず経営的な話が多くなります。

前職では営業として、そうした所の前段の裁きをすることが多く、経営のサポートみたいなことをさせていただく事も多くありました。
独立後は「新規事業で迷っている」「AIってどう使えば良いの?」「サイトリニューアルをどのようにすれば良い?」など、経営に近い課題をシステムに落とし込む所の相談をいただく事が多くなっています。

クライアントの業種も様々ですよね?

はい、飲料、家電、アパレル、小売、最近多いのは飲食業界ですね。

経営的な課題からシステムとなると、多岐にわたって難しいお仕事ですね。

これが今一般的に言われているDX(デジタルトランスフォーメーション)という所の全般なのかなと思います。

企業によるデジタルトランスフォーメーションの促進、コンサルティングをしつつ、実際にシステムを開発する所まで一括してされているのですね。

DXの意味が広域なので、企業によって見る地点が異なります。
私のところに来る話は、単純な開発と言うより業務フローや販促も含めた複合的且つ戦略的な話が多くあります。

専門性を求められることから最近はコンサルティングから入るケースが多く、その都度最適な内部パートナーとチームを組んで行うという形を取っております。例えばクライアントが金融系だと、ゲームしか作ったことがないエンジニアは対応しずらかったり、アパレル系と飲食系では全然要望が違うので、一社でだけでエンジニアを抱えてやっていると、なかなか臨機応変に対応することができません。その都度の相性がいいパートナーを探すことが今は最短ゴールに結びつくと思います。

コンサルティングをしていてコロナの影響を感じますか?

そうですね、緊急事態宣言時を含めると前年対比で相当な落ち込みがあります。今年は営業できない期間があり、営業しても席を空けないといけない。残りをどうしようとなると、テイクアウトやデリバリーなどに頼ります。一方でUber Eatsの様なデリバリーサービスだと手数料が高く割高に感じてしまう。テイクアウトでお弁当を売ってもそこまでの足しにならないので、どうすれば良いでしょう?みたいな状態ですね。

私は「システムのためのシステム」というのが嫌いで、今まで見てきたシステムは過剰開発なものが多く見受けられました。開発会社が儲かるためには必要ですが、クライアントの先にいるユーザーの為になっていないことが多くありました。UIUXという言葉が目立ってきたように、システムはよりユーザー目線で必要かどうかを判断しながら進めて行く必要があると考えてます。

そして、飲食業界もユーザー目線で考えるタイミングだと思います。特に都市部においてこれまでは若干数が増えすぎたのかと思います。どの駅に行っても飲食店の数はすごく多いですよね。私はどちらかというと、このまま無理やり成長を維持するのではなく、グローダウン(Grow Down)というか、このタイミングで店舗数を適正な数に減らしてはどうかと思っています。不採算店舗を検討するいいタイミングだとも思います。システムの仕事ですがそこまで考えるケースがあります。

海外は、コロナ状況下だとしても、新しい世界を作ろうとしていると感じることがあります。ニューヨークに住んでいる友人と先週話したのですが、マンハッタンは全然人がいないと。在宅勤務が増えマンハッタンに行く機会が減り、周辺に住んでいる方々が行かない事に加え、マンハッタン内に住んでいた裕福な方々は周辺にある地方のセカンドハウスに住み始め、そっちをベースにし始めた人が多いと。

日本では、「また戻ろう」といままでの元に戻そうとする力が強いと感じることがあります。最近では出社率を低いまま在宅を維持したり、シフト制にしている会社が増えてると聞いてますが、新しい生活と企業との関わり方を構築して欲しいですよね。

 

課題を解決するために、企業は何をすれば良いのでしょう?

企業も大小があるのでなかなか一概には言えませんが、DXと言われる前のタイミングから、米国の企業では社内横断的にデジタルを統括できる役員レベルの方が就任し成功していると聞いたことがあります。色々な部署が縦割りでやってしまうと、後々業務が煩雑になりデータベースが共有できないなどの問題が出て結果ユーザーにベストなものが提供できなくなります。会社の中枢の人間として全体を見ながら推進していく人がより増えていく必要があるんじゃないかなと思います。

あくまでも一意見ですが日本はベンダーの力がちょっと強すぎですかね。「外注文化」はベンダーが提案した中身が良いかどうか分かる人が育たない。考えるよりも、提案書をそのまま上に投げるような事が多いので、ベンダーの言いなりになってしまう。「どうあるべきか」も外に作らせているくらいなので、日本全国民が「大企業病」みたいになっている所はありますね。

例えばドーナツ屋さんだったらドーナツをどういう人にあげて、自分たちがどう作りたいなっていう思いが多分あると思うんですよね。それが「システムで」となった瞬間に途切れてしまう。本当はもっとそこを大切にするべきで「匂いが届くようなアプリを作ってくれ」などと言った方がいいですよね。それがオムニチャンネルの第一歩で、Webでも店舗でも同じ体験をさせる。そこまで言える会社がまだ多くはないと思います。

昨今のデジタルトランスフォーメーションの流れは、これからどうなって行くと思われますか?

DXという言葉は広域すぎる上に、やや言葉が先行している所がありますよね。ちゃんと理解していない人がほとんどじゃないかと思います。

「0を1にする」のも「10を15にする」のもDX、先端企業がAIを使うのもDX、ホームページを作るのだってDX。大切なのは、ITはツールであって付随する業務やサービスが多岐に渡って連携し、その全体が改善するようにすることがDXなるのだと思います。そうした所を理解している人が社内やパートナーにどれだけいるかが重要なんじゃないかと思います。

良かったと思うのは、コロナの影響とはいえ、オンラインミーティングのツールや契約など、デジタル化が進んでいる領域もありますよね。デジタル化が進む所が増え、それを総称してDXと言うのであれば、前進していると思います。

コロナ禍以前にご経験された中で、かなりのスピードでDXが進んだ分野はありましたか?

時間軸が違うかも知れませんがやはり、昨今10年間のスマートフォンの世界というのはすごく変化しましたね。初めは「いやいや、日本はガラケーでしょ」と、どこの企業に行っても断られました。それが2011年ぐらいですね。そこから比べると、もう今は一人一台。写真を見る、音楽を聞く、習慣全てが変わりましたよね。Apple,Googleが築き上げたこの世界がDXのお手本だと思います。
DX事例の細かいものはいっぱいあると思いますが、私はこの10年このスマホに育てられたので一番感じる分野です。

グロースをしていく中では、顧客体験がますます重要になるかと思いますが、いかがでしょうか。

まさに、この業界自体がグロースしていますよね。だいぶツールが揃ってきたと言うのもあるんじゃないでしょうか。Amplitudeのように、データを集約して分析できるツールを容易に導入できる環境が整ってきたのは一つあると思います。

先端を行かれている企業は、以前から顧客との接点の改善に取り組んでいましたが、「ユーザーのファン化」がキーワードになると思いますと数年前から言ってます。新規のユーザー獲得より、既存のお客様のファン化に力を注いだ方がいい。その結果ロイヤリティーが上がり、結果効率的に売上も上がる事がだいぶ証明されてきたんじゃないかと思います。

我々のようなマーケッターが数年前に想像していた形に、ようやく今徐々になってきていると思います。それも良いツールが出てきていることも要因かと思います。

 特に顧客のファン化に成功していると感じる企業はありますか?

昔からウォッチしているのは航空会社のマイレージプログラムですね。日本だけじゃなく世界的にですが、長年上手くいっている分野だと思います。自然と航空会社を選ぶときに、自分の持っているマイルを基準に選ぶじゃないですか。モノの購入の判断基準にもなっている。ロイヤルティプログラムも上を目指すとメリットがあるように設計されている。そこはすごく自然にファン化されてますよね。

こうした領域では「無意識に」というキーワードがすごく大切かなと思っています。無意識に習慣化させたり、自然と選んでいるというのが、たぶん体験のゴールだと思います。
レジで「○○のアプリありますか」と聞かれるのではなく、自然とバッグから出るようになれば強いですよね。ちょっとした差なんですけど、その前にはもっと大きいハードルがあって、ユーザーにちゃんと浸透させて習慣化させていくとか、自然に習慣化させるというところが本来皆さんのやりたい所なのだと思います。そこまでできたら、別にWebでもアプリでも提供するものは何でも良いですよね。

コロナ後の社会はどのように変化するでしょうか?

個人的には、基本的な動作が再定義されるかなと思っています。例えば、話す、楽しむ、遊ぶなど、基本的に今まで自然とやってた所というのが、非対面になったり、頻度が少なくなったり、共有が少なくなったりしています。同じ言葉でもかなり再定義されるのかなと思います。

買う方も売る方も、情報の取り方がこれまでと変わりますよね。知り合いの会社なんかは、ハードウェアーのサービスを提供しているんですけども、問い合わせがあったら先にその商品を送ってしまい、打ち合わせの前に一回使ってもらっています。これって実はフリーミアムなんですよね。あれがちょっと形を変えて、ハードウェアでフリーミアムをやっているだけなんですが、それですごく成約率が上がっているそうです。

今までであれば、打ち合わせに行って、企画書を作って、稟議を上げてもらってという形だったと思うのですが、今まで当たり前だった売り買いのプロセスが変わってると感じました。

コロナの状況下での、グロースの施策で面白いと感じられたものはありますか?

全然業界は違うと思いますが、歌手・アーティストの方々が有料で配信ライブをされていますよね。

あれは「第3のビール」のようなものだと思いました。今までのCDやライブが生ビール、音楽配信が発泡酒だとしたら、また全然違う楽しみ方が出てきたなと。逆に悪い所もありますよね。その場の臨場感だったり、グルーヴ感みたいなところは足りないので、一緒に盛り上げるっていうのはやっぱりちょっとなかなかできないと思ったりはしますが、曲の合間の細かい言葉が聞けたり、新しい形ができつつあるのかなと思いました。

そうしたオンライン限定のものは増えていくと思いますが、ツールも増え技術も進歩し体験もまた変わり。生ビールと味は差別化できなくなる日がくると思います。

ただ今は簡単に真似できてしまう時代ですので、すぐ差別化の議論が必要になってきます。飲食店でよく例えるのですが、一昔前は人や味や雰囲気で勝負していました。ITが出てきて電話帳型から評価型、ソーシャル型へと進化し、それでもまだ飲食業界は進化しています。ですが私の周りでも結局「あの店長のところに行こう」と結局好きなところに行くんですよね。

グロースやマーケティングの先はファン化だと信じています。

いかにグロースさせて行くかという議論はいかにユーザーをファン化させていくかと言う本業のサポートであり、そういうツールが今後も必要とされると思います。

 

黒瀬翼氏プロフィール
株式会社AGARU 代表取締役

法政大学法学部卒業後、旅行会社、VC、ITベンチャー、コンサルティングなどを経て2011年 株式会社アイリッジ取締役COO就任。 2018年 アイリッジ取締役COO退任後、株式会社AGARUを起業、日本環境設計株式会社社外取締役、株式会社ジョリーグッド社外取締役兼務。立命館大学客員教授。共著書に「位置情報ビジネス報告書2015」「オムニチャネルビジネス報告書2015」(インプレス刊)がある。

 

次回からは、黒瀬さんがインタビュアーとなりましてのインタビュー記事連載となります。デジタルトランスフォーメーション、デジタルマーケティング、グロースマーケティングを推進する皆さま、ぜひお楽しみに!

【著者紹介】

グロースマーケティング編集部

編集部やスタッフが、プロダクトのデータ解析や継続率改善など、
自社サービスのグロース戦略に役立つ情報をお届けしています。